常識を覆すESGモデル新工場への挑戦
2025.10.01
今、自動車産業は電気自動車の普及などにより「100年に1度の大変革期」を迎えている。IJTTは新規成長分野への参入を目指し、北上の拠点に新たな工場の建設を進めることになった。建設プロジェクトで現場の中心的な役割を担っているのは、北上技術第2部のナイトウ。過去3度の工場建設に携わってきた彼にとっても大きな挑戦となる北上新鋳造工場にかける思いを聞いた。
ロボット時代に対応する新工場
今回の北上新鋳造工場建設の目的は、自動車産業の大変革期に対応する大型ロボット向けの鋳造部品を製造することだ。自動車工場の製造ラインなどで使われる垂直多関節ロボットのアームなどが中心となる。
「電気自動車の普及に伴い、自動車の組み立てにおいてもバッテリーなど、重量物の扱いが増加しており、そのような部品を自動で組み立てるためには、重量物運搬が可能な大型ロボットの需要が高まっています。しかし、そのようなニーズに応えるためには、IJTTの既存工場だけでは十分な対応が難しい」
新たな市場に対応するためには専用の生産ライン構築が不可欠だった。
新工場建設にあたっては、7ヘクタールの林を伐採する必要がでてきた。伐採した木材は3R(リデュース、リユース、リサイクル)を徹底し、工場敷地内神社にも活用されている。そのほかにも、この後紹介する新たな設備を導入し、自然と共生する工場を目指すこととなった。
常識を覆す4つのイノベーション
ナイトウは工場建設にあたり4つのテーマを掲げた。
1.消費を変える
2.管理を変える
3.構内物流を変える
4.作業現場を変える
このうち、工場のCO2排出に特に大きく影響を与えるのは"消費を変える"だ。これはエネルギーや電力の消費をはじめ、鋳造に使う砂など、原材料の消費も含まれている。
北上新鋳造工場の建設にあたって、従来のキュポラ炉に代わり、効率性の高い最新の電気溶解設備を導入した。
「コークスのキューポラ炉では、炎によって周辺に逃げる熱量が多いことが課題でした。電気炉になることで、周囲に逃げる熱が大幅に少なくなり、エネルギーが効率的に使われるようになります」
建物の断熱性向上も消費削減策の重要な要素だ。屋根の二重構造化、ALC(軽量気泡コンクリート)壁材の採用、そして窓の数を減らすという従来の常識を覆す決定により、熱の出入りを抑制し、空調設備のエネルギー消費を大幅に削減した。
工場では採光などの観点から、多くの窓を設けることもある。しかし窓が多くても、外からの光が入るのは昼の間だけ。24時間稼働している工場で、夜は採光の役目を果たさない。さらに照明をLEDに変えたことで、電力消費も大幅に抑えた。
「窓の数を減らすという発想はもともとありませんでした。他社の工場見学や展示会、セミナーでの情報収集がヒントになりました」
"管理を変える"では、IoTやシステム技術を活用したスマート工場を目指した。設備管理、生産管理、品質管理、作業者管理、消費量管理の5つの側面で可視化を進め、特に製品個別のトレーサビリティ管理システムの導入を計画している。
"構内物流を変える"では、新工場でフォークリフトの使用を極力なくし、自動搬送ロボット(AGV、AGF)を導入する。工場内6カ所で自動走行による搬送を行い、自動倉庫システムも含めた効率化を図る。
年齢・性別を問わず働きやすい環境への挑戦
そして"消費を変える"に並んで北上新鋳造工場を特徴づけるのが"作業現場を変える"だ。
従来までの鋳造工場というと溶けた金属のために室温が高くなり、火花が散ることもある、さらに砂や鉄を扱う重労働というイメージであろう。しかし新工場では、約50台のロボットを導入し、人による作業をできるかぎり自動化することを目指した。
「年齢や性別を問わず、誰もが働きやすい環境を実現したい。これまでの鋳造工場のイメージを完全に変えたい。それがプロジェクトの最も重要な目標のひとつです」
少子高齢化による労働人口の減少は、製造業のみならず、ありとあらゆる業界で人手不足の問題を引き起こしている。そのような社会において、いかに必要な人の数を減らすか。それがこれからの社会で成長していくための、重要な要素になる。自動化は、これらの社会課題解決に必要不可欠なソリューションなのだ。
知識継承への責任感
ナイトウにとって今回のプロジェクトは、これまでの経験の中でも、最も難易度が高く重要な挑戦になる。北上新鋳造工場が完成すれば、日本最大規模で自動化や環境対策が推進される工場になるからだ。
「今回のプロジェクトは、自分にとっての集大成。これまでの経験と知識を新工場建設というチャレンジングな場でしっかりと形にしたい。そしてこのスキルセットを次の世代に引き継いでいくことが私の責任だと考えています」
さらに新工場プロジェクトのチームメンバーのほとんどに工場建設の経験がないという課題もある。そこでナイトウは、検討資料を標準化し、将来のプロジェクトのために知識と経験を継承していくことにも取り組んでいる。
「北上新鋳造工場は、砂の造形ラインでは日本最大の規模です。これまでにないCO2排出削減対策や、革新的な自動化を通じ、まずは地元、地域社会への貢献度を高めていきたい」
従来の工場建設の常識を超え、革新的な発想で挑戦を続けるプロジェクトチーム。その取り組みが、IJTTはもとより、ひいては製造業の未来を切り拓く新たなモデルケースとなるに違いない。