デジタルで進化し、五感で守り抜く─
真岡工場が挑む「故障ゼロ」の未来

IJTTの全6工場の中で最も小規模な真岡工場。その小回りの良さを活かし、現場の声を起点とした変革が進んでいる。長年続いてきた「紙とハンコ」の文化から、最新のクラウド型保全管理システムへの完全移行だ。
現場が大切にしてきた職人の知恵と新しいデジタル技術をどう掛け合わせるのか。IJTTが目指す「故障ゼロ」の未来に向けた、真岡工場の取り組みを追う。


失敗が教えてくれた、仕事の原点

フタハシは入社19年目を迎える(当時の社名は自動車部品工業)。それから、一貫して設備を守る保全の業務に携わっており、現在は真岡工場の保全チームを率いるライン長として、仲間たちと共に工場の安定した生産を支えている。
そんなフタハシが率いる保全チームは、「和気あいあいとした愉快な仲間たち」という言葉がぴったりの明るい雰囲気だ。

チームの運営について、フタハシは「基本はメンバーに自由に任せて、何かあれば自分が責任を取る」という姿勢を貫いている。指示は出すが、やり方は任せる。一人ひとりが自ら考え行動してもらうことで、個人の主体性と成長を促すのがフタハシ流だ。

そのような姿勢の背景には、自身も試行錯誤してきた、これまでの経験があった。

「若手のころに担当した設備の修理で、特に記憶に残っているものがあります。最初、故障の原因をモーターの不具合だと考えて交換したのですが、結局直りませんでした。翌日、もう一度図面を徹底的に見直したところ、原因は全く別の場所にありました」

頭を冷やして向き合ったからこそ、思い込みによって見落としていた事実に気づくことができたという。

「固定観念を排除し、一つひとつ事実を確認することの重要性を痛感しました。保全は、原因不明のトラブルを手探りで解き明かす仕事。試行錯誤を重ねてきたことが何よりの財産です」


「紙」の限界と、デジタルという選択

これまで、保全業務は紙の依頼書が中心だった。
製造現場から修繕の依頼が紙で回され、それを保全が処理し、最後にシステムへ手入力する。チームリーダー、スタッフ、グループリーダーと三重の押印が必要なフローで、現場業務の合間を縫っての事務作業は、往々にしてタイムラグを生んでいた。

「依頼書が保留されたまま忘れられたり、製造側は出したつもりでも保全に届いていなかったりすることもありました。故障の状況がリアルタイムに見えないため、作業の優先順位を決めるにも時間がかかっていました。現場を見ていて、『これではいけない』と危機感を感じていたんです」

そこで決断したのが、クラウド型保全管理システムの導入である。フタハシがメンバーに対して説いたのは、「時は金なり」という考えだった。

「クラウドならどこからでも状況が見えますし、ペーパーレスで無駄な手間を減らすことができます。完全移行までの間、生産現場には苦労をかけましたが、今ではタブレット端末ひとつあれば、故障現場で作業を完結できるようになりました」

これまでは紙の修理依頼書が一か所に集約されていたため、確認のためにその場所を経由してから現場へ向かう必要があった。デジタル化により、手元で修理依頼書を確認できるようになった結果、月に30時間の削減に成功した。補修履歴の入力時間も月に65時間削減することに成功し、本来向き合うべき「機械のケア」に時間を充てられるようになった。


デジタルと共存する、「五感」の大切さ

しかし、デジタル化が進んでも、変わらないものがあるとフタハシは言う。

「この仕事においては、やはり「感性」が不可欠だと思っています。特に大切にしているのは『音』。設備のいつもと違う音に気づくことは、故障の予兆を察知し、計画的に部品交換を行うための重要な判断基準になります」

デジタル技術を活用して効率化を進めつつも、長年培ってきたこの「音を聞き分ける力」や経験則を、メンバーにしっかり伝承していくこと。それだけはこれからも変わらずに大切にしていきたいと語った。

データがアラートを鳴らしたその先で、実際に機械に触れ、音を聞き、直感的に「ここはまだ大丈夫だ」「いや、ここは交換が必要だ」と判断するのは、常に人間である。蓄積したデータと、経験からくる五感を組み合わせること。それこそが真岡工場の進化の形だ。


「働きたい」と思える工場へ

デジタル化は、あくまで手段に過ぎない。フタハシが目指しているのは、その先にある「より良い職場環境」だ。

「効率化した先にあるのは、『故障ゼロ』という目標です。機械が壊れる前に予兆を見つけ、先手を打ってケアをする。また、必要な部品をあらかじめ準備し、製造現場と協力しながら設備を守る仕組みを整えたいです。最終的には、設備を管理する担当者と製造の担当者が互いに協力できる環境をつくりたいですね」

さらにフタハシが情熱を注ぐのは、働く人の快適性である。

「働く環境を整えることは、そこで働く人の誇りや意欲に直結します。『ここで働きたい』と誰もが思えるような職場にしていくこと。それが、今の私の大きな目標です」

デジタルで効率を上げ、より安全で、より快適な場所を。保全の現場は、人が主役となって未来をつくる場所へと変わりつつある。フタハシの目は、その先にある真岡工場の姿をすでにとらえている。