形にするだけでは、終わらない。
お客様と現場をつなぐ鋳造技術
2026.10.30
街を走るトラックのエンジンや足回りには、普段は目に触れない数多くの部品が使われている。その一つひとつが量産に至るまでには、お客様との対話と、製造現場での試行錯誤がある。
IJTT土浦工場で鋳造品の試作から量産開始までを担うサトウとスガワラ。お客様の要望を受け止め、現場で実現できる方法を探る。それが、二人の仕事だ。
二人が日々挑む姿を通して、鋳造の奥深さと、次のものづくりへの想いをひもとく。
一つの部品を、量産へ送り出すまで
溶かした金属を型に流し込み、製品をつくる鋳造。サトウとスガワラが所属する鋳造技術第2部は、お客様の求める仕様を満たし、安定して生産できる製品へとつなぐ役割を担っており、年間数百点の量産品・試作品をお客様のもとへ送り出している。
製品が量産に至るまでの道のりは、決して短くない。営業を通じてお客様から依頼を受け、内容をすり合わせたうえで、3Dプリンターなどを活用して試作品を製作する。試作品の評価をもとに修正を重ね、製品図面の承認を得た後は、工場の担当者と安全性や品質、生産効率を検討し、量産用の金型(製品の形をつくる型)を製作。最初に製作した製品を評価し、最終承認を得ると、量産へ進む。多くの案件では、立ち上げまでにおよそ3〜4年を要する。
大学でステンレスの熱処理を研究していたスガワラは、自動車に関わる仕事を志し、鋳造の道を選んだ。
一方、サトウは異なる素材の設計経験を生かし、エンジンや足回りなど、幅広い部品のものづくりに挑戦したいとIJTTへ入社した。「素材は違っても、金型から製品を取り出しやすくする工夫や、壊れにくい仕様を考える点は共通しています。以前の経験も、今の仕事に生きています」とサトウは話す。
それぞれ異なる分野で培った知識を生かしながら、新しい製品の立ち上げに向き合っている。
技術者として、お客様に寄り添う
量産に向けた第一歩は、製品仕様について丁寧に認識を合わせることだ。そのためには、技術的な提案を分かりやすく伝える工夫も欠かせない。「現物の写真やシミュレーション結果を見せて、目で見て理解していただけるようにしています」と、サトウは語る。
現在、サトウが主に担当するのは、エンジンの排気ガスを集めるエキゾーストマニホールドだ。
品質を安定させるには高い技術力が求められるが、それでも、難しい目標だからこそ、挑みがいを感じているという。
お客様から期待されているのは、新規製品の立ち上げだけではない。量産を開始した後の製品にも同じように期待が寄せられていると、スガワラは語る。
「困ったときに頼れる鋳造会社として、期待されていると感じます。ただ図面を形にするだけでなく、問題を解決する提案や対応が求められています」
現場の声を、量産の力に
もちろん、実際に製品をつくる現場の視点も欠かせない。お客様と合意した仕様を、量産ラインで実際につくれる形にする段階にも難しさがある。
スガワラが印象深く覚えているのは、製作した金型が重く、作業負担が大きいと現場から相談を受けた案件だ。何度も工場へ足を運び、作業者の動きを見ながら、話し合いと試行を繰り返した。重量を減らすだけでなく、持つときに手をかけるくぼみを設けるなど、仕様を見直して作業をしやすくした。
鋳造は、季節による環境の変化にも左右される。夏は湿気で生砂(砂型を作るための砂)が水分を含みやすく、冬は溶けた鉄を運ぶ間に温度が下がる。こうした変化が、製品の品質に影響することもある。設計だけですべてを解決することは難しく、製造現場の条件管理や経験が欠かせない。
こうした難しさに向き合ううえで、サトウは原理原則に立ち返ることを大切にしている。
「完成したものをよく見て、なぜその結果になったのかを考えます。現場にも足を運び、状況や作業者の動きを確認しながら、実現できる改善策を探しています」
課題を乗り越える力は、部署を越えた連携からも生まれる。思うような成果が得られず、納入期日に間に合わない可能性があったときのことだ。サトウが関係部署に協力を求めると、前向きな返事が返ってきた。
「事情を説明したら、『言ってくれればやるよ』と快く引き受けてもらえました」
製造部門が鋳造から納入までのスケジュールを前倒しで調整し、製品は無事、期日どおりに届いた。
自分が考えた金型から製品が生まれ、現場と対話し、仲間の知恵を借りながら評価で狙い通りの結果が出る。その瞬間は、サトウにとって大きな喜びだ。スガワラも、自分が担当した部品を搭載するトラックを街で見かけると、仕事の意味を実感するという。
「普段は外から見えない部品ですが、トラックを通して社会のインフラを支えています。その一部に関われていることがうれしいです」
鋳造のこれからを見据えて
鋳造技術の現場で経験を重ねた二人はそれぞれ、次の挑戦を見据えている。
スガワラは、紙で回覧・押印していた承認業務のアプリ化にも取り組んでいる。入力後のメール送信や承認の流れを自動化し、進み具合を確認しやすくすることで、作業の手間を省き、書類を紛失するリスクも減らしている。
「将来は、自分で課題を見つけ、アプリや生成AIを活用した仕組みを設計・実装できるようになりたいです」
サトウが目指すのは、金型や不良対策などの知識を着実に身につけ、鋳造のスペシャリストになることだ。
軽量化や強度など、お客様が本当に必要とする機能を深く理解し、期待を上回る提案につなげたいと考えている。二人はそれぞれのアプローチで、新しい技術と現場の知恵を生かす未来を描いている。
これから鋳造に携わる人へ、スガワラはこう語る。
「解析の精度が高くなっても、あくまでシミュレーションです。工場で実際の挙動を見て、現場と対話しなければ得られない答えもあります。デジタルを使いこなしながら、現場にも寄り添ってほしいです」
サトウが伝えたいのは、疑問をそのままにしない姿勢である。
「なぜこの工程なのか、なぜこの方法でできるのか。原理原則を理解することが、いつもと違う状況への対応につながります。エンジニアは常に挑戦者です。向上心を持ち、『なぜ』を問い続けてほしいです」
技術を学び、人の声を聞き、実物から答えを探す。その積み重ねが、お客様の期待に応える力となり、IJTTの次のものづくりを支えていく。
